点火時期の制御はエンジン制御のなかで最も基本かつ重要な項目です。これによってトルク、燃費に影響するだけでなく、設定を誤ればエンジンは確実に破損してしまいます。エンジンは回転数が遅い時は燃焼速度が遅く、高回転になるほど燃焼速度は速くなり、その一方でエンジンの回転の上昇速度は燃焼速度の速さをはるかに上回るため、回転が上がるほど点火時期を早めないと有効な燃焼圧を引き出せなくなります。
一方吸気量が少ない場合には燃焼速度が遅くなるので、吸気量が減るほど点火時期を早める必要があります。また水温に応じた点火時期の加減も重要です。こうした基本ロジックを駆使しながら点火時期制御を最適にチューニングする必要があるわけです。点火時期は吸気量=負荷の基本割付マップをもとに、クランク角センサー、カム角センサー、ノックセンサーの信号により、進角、遅角を演算し、実際の点火時期を決定し、この時のデータを学習制御して次の演算のベースにするシステムです。従って基本割付マップを見ても実際の点火時期はわかりません。
スバルの場合は、ノック制御が2500rpm〜6000rpmで行われ、他メーカーのノック制御より幅広い領域になっているのが特徴です。実際の基本割付マップは、トレースノック点火時期(ノッキングが生じる限界点火時期)とされ、ノック制御範囲を超える回転域ではトレースノック点火時期より-5度ていどの余裕が与えられています。そして同時にノック制御域でのノッキング判定結果をメモリーし、ノック制御域より高い回転域ではあらかじめ決めた点火時期よりメモリー分を加算する学習システムを採用することで、幅広い回転域、幅広いガソリン・オクタン価に対応させています。
プローバではトレースノックの限界マップ-x度を基本マップとし、ノック制御に入りにく設定にしています。ノック制御に入ると遅角状態から進角に復帰する時には1度ずつステップ的に回復するため結果的に応答性が悪くなるからです。また軽負荷時にはトレースノック制御時より熱効率が高いMBT(ミニマム・アドバンス・フォア・ベストトルク)での点火時期制御を採用し、よりトルク、レスポンスを高めるようにしています。こうした的確な点火時期チューニングにより、幅広い回転域でノーマルECUより出力&レスポンス追求型の点火時期にしているのです。
※ノックセンサー:ノックセンサーはシリンダーブロック表面の振動を検出する共振式が採用されています。絶えず発生する大きな振動の中から各気筒の圧縮上死点付近でノッキング特有の振動を検出した場合にのみノッキングと判定する高度なECU内部のプログラムにより、ノック制御が成立しています。こうした圧縮上死点判定やノック特有の振動検出などのソフトウエアを備えていない市販ノックセンサーは、振動や騒音すべてをノッキングと判定してしまいます。特に5000rpm以上ではバルブの着座音、着座振動が大きくなるため、著しく精度にかけるので注意してください。