点火時期制御は吸入空気量をもとに点火タイミングを決定していますが、燃料混合比もエンジンの運転状況に合わせ、つまり吸気量に合わせて理想空燃比からパワー空燃比までは最適に実行されるシステムになっています。
定常走行時、軽負荷時には理想空燃比になるように、基本的にはエアフローメーターの信号を元に燃料噴射量が演算されますが、実際には精度を高めるために空燃比フィードバック制御が行われています。空燃比フィードバック制御とは、O2センサーの信号により燃料噴射量を微調整し、より高い精度で理想空燃比(14.7)となるように制御するシステムです。このフィードバック制御は低速からの緩加速時などにも適用されています。理想空燃比を維持することで、三元触媒を働かすことができるのです。
一方、加速時には理想空燃比からパワー空燃比(13.5)に移行しますが、急加速時にはエアフローメーターの信号だけではパワー空燃比となるような混合比の実現に応答遅れが生じるため、スロットルポジションセンサーの開度に応じて加速増量係数など状況に応じて様々なマップ補正が行われます。
つまり混合比の基本割付マップの上に始動増量係数、水温増量係数、A/F補正係数、始動後増量係数、加速増量係数が適宜、状況に応じて加算されるようになっています。一般的に誤解されているように基本割付マップの混合比を変えると、運転状況に応じて加算される補正係数を乗じると本来の狙いとずれた混合比になってしまいます。
このため、主として加速増量係数のK値を最適化すること、特に高回転、高負荷域では加速増量に伴う吸気ポートの壁面に付着する生ガスの量を把握し、これを見込んだK値にすることが重要です。負荷の軽い通常運転時は当然A/Fフィードバックを生かして理想空燃比になり、加速に入ると出力空燃比に変更されます。もちろん、高負荷時には加速補正+壁面流補正を合わせたK値にしています。
さらに高負荷・高回転域に入ると燃焼室燃料冷却のためにフル増量係数をさらに加算します。これにより出力空燃比から冷却空燃比に移行するようになっています。冷却空燃比とは、燃焼温度の上昇に伴い燃焼室周囲の冷却が難しくなるため、過剰なガソリンが燃焼室内で気化する時の冷却効果で燃焼室を保護するための空燃比です。
このように考えると、加速力やレスポンス向上などをチューニングするのは、加速補正のためにK値が大変重要であり、全域で混合比を濃くしたり薄くしたりする手法はチューニングとはいえないわけです。